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新たな「エネルギー基本計画」案まとまる

経済産業省は2018年5月16日、3〜4年ごとに見直される中長期的なエネルギー政策の方針である「エネルギー基本計画」の案をとりまとめました。政府は7月にも閣議決定する方針です。主なポイントは以下の通りです。

  1. 2030年度の電源比率は従来の目標を維持(再生エネ22〜24%、原子力20〜22%、火力56%)
  2. 原発は「重要なベースロード電源」
  3. 原発依存度は「可能な限り低減」新設・増設は明記せず
  4. 再生可能エネルギーを2030年にむけて「主力電源化」
  5. 核燃料サイクルは、再処理やプルサーマルを推進

今回の案では、太陽光などの再生可能エネルギーについて「主力電源化」と初めて明記しました。また、原子力については「可能な限り依存度を下げる」という従来の方針を維持しました。
その一方で、2030年度時点における電源の割合については、再生可能エネルギーを22〜24%、原子力を20〜22%とする2015年に掲げた目標を変えませんでした。これに対し「脱原発」派からは、再生エネルギーを主力電源化するならば割合も拡大すべきとの批判があります。
計画案ではまた、2050年に温室効果ガスを80%削減する目標に向けて、原発を「選択肢」と位置付けました。しかし、原発の運転期間は原則40年、最長でも60年と規定されています。原発を将来にわたって活用してくためには、建て替えや新設・増設が必要になりますが、計画案には明記されませんでした。こうした点について、原発推進の立場からも「問題の先送り」などと批判の声が上がっています。

これまでの経緯

311以前は「基幹エネルギー」の位置付け

東日本大震災の前年、2010年に政府がまとめた「エネルギー基本計画」では、

原子力は、供給安定性・環境適合性・経済効率性を同時に満たす基幹エネルギーである。安全の確保を大前提として、国民の理解と信頼を得つつ、新増設の推進、設備利用率の向上等により、積極的な利用拡大を図る。

と位置づけられていました。
しかし、2011年3月の東京電力・福島第1原発の事故後、「脱原発」を求める声が高まります。

311後に示された「原発ゼロ」を求める民意

2012年6月、民主党政権下のエネルギー・環境会議は、震災前の時点で約26%だった原発の比率を、2030年に、0%、15%、20~25%のいずれを目指すかという3つの選択肢を示しました(エネルギー・環境に関する選択肢)。
この3つの選択肢をめぐって、2012年8月、電力会社関係者が除外された一般人が参加する「討論型世論調査」が実施されました。討論型世論調査とは、参加者同士の討論や専門家への質問などを通じて、熟慮した意見の推移を把握するものです。
調査の結果、参加者は「安全の確保」「エネルギーの安定供給」「地球温暖化防止」「コスト」の4つの判断基準のうち「安全の確保」を最も重視し、3つのシナリオのうち最も大きな経済負担が必要となる「0%シナリオ」が支持されました。
討論型世論調査の報告書は、以下のようにまとめています。

国民は省エネをもっと行い、また、ライフスタイルも変え、コストが高くなっても再生エネルギーを推進し、国民も発想の転換をするということを引き受けると読むべきであろう。

また、報道機関による世論調査などでも、「脱原発」を望む民意が示されます。

野田政権「原発ゼロ」を打ち出すもあいまいな位置付け

2012年9月14日に野田政権は、「2030年代の原発稼働ゼロ」を目指すエネルギー戦略を打ち出します。原発ゼロを実現するためにあらゆる政策資源を投入するとし、以下の3原則を掲げました。

  1. 原発の40年運転制限制を厳格に適用する
  2. 原発の新設・増設は行わない
  • 原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする
  • しかし、この方針を打ち出したすぐ後の9月19日に、野田政権は以下の文言を閣議決定したのです。

    今後のエネルギー・環境政策については、「革新的エネルギー・環境戦略」(平成 24年9月14日エネルギー・環境会議決定)を踏まえて、関係自治体や国際社会等と責任ある議論を行い、国民の理解を得つつ、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する。(2012年9月19日の閣議決定より)

    つまり、「2030年代の原発ゼロ」を掲げたエネルギー戦略を、政権として採用したのか、参考扱いにしかすぎないのか、どちらとも読める玉虫色の表現にとどめたのです。
    はっきりと原発ゼロを打ち出せなかったのは、原子力協定を結ぶアメリカへの配慮や、再処理施設を抱える青森県の反発などがあったと指摘されました。
    このように、野田政権による原発稼働ゼロ目標はあいまいなものでした。そして、あいまいながらも原発ゼロを目指したエネルギー政策も、2012年12月の衆院選挙による政権交代を経て軌道修正されていきます。

    安倍政権「原発活用」へ方針転換

    2013年4月、安倍首相は国会で、

    民主党政権が掲げた2030年代に原発稼働ゼロを可能とするという方針は、具体的な根拠を残念ながら伴っていないものでありまして、ゼロベースで見直しをして、エネルギーの安定供給、エネルギーコスト低減の観点も含め、責任あるエネルギー政策を構築をしていかなければなりません

    と答弁し、原発ゼロ政策の方針転換を進めました。そして2014年4月11日に「エネルギー基本計画」を閣議決定しました。主なポイントは以下の通りです。

    1. 「原発ゼロ」目標を取り下げ
    2. 原子力を「重要なベースロード電源」と位置づけ
    3. 原発の新設・増設を否定せず(言及せず)

    この計画を受けて2015年7月に経産省がまとめた「長期エネルギー需給見通し」では、2030年の電源構成について、原発20〜22%、再生可能エネルギー22〜24%、火力56%などとしました。こうして、民進党政権が掲げた「原発ゼロ」目標は取り下げられました。

    小泉元首相や野党ら「原発ゼロ」法案で連携

    小泉元首相と細川元首相が顧問を務める民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」は2018年1月10日、「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」を発表しました。主なポイントは以下の通りです。

    1. 稼働中の原発の即時停止
    2. 原発の再稼動や新増設を認めない
    3. 再生可能エネルギーの割合を2030年までに50%以上に、2050年までに100%にする

    小泉元首相は記者会見で、「どの政党であれ、原発ゼロ、自然エネルギー推進に全力で取り組むのであれば、われわれは協力していきたい」と述べ、法案の策定と国会での審議に各党の協力を呼びかけていく考えを示しました。

    その後、立憲民主党、共産党、自由党、社民党の野党4党は2018年3月9日、小泉元首相らの団体とも調整して作成した「原発ゼロ基本法案」を衆院に共同で提出しました。主なポイントは以下の通りです。

    1. 全ての原発を速やかに停止・廃止する
    2. 法律の施行後5年以内にすべての原発を廃炉
    3. 再生可能エネルギーの割合を2030年までに40%以上にする

    ただ、与党が応じないため、この法案が国会で審議される見通しはありません。

    賛否両論

    「脱原発」派の主張

    • 原発なしでも電力はまかなえる
    • 原発は安価な電力ではない
    • 脱原発は国民の民意である
    • 地震など災害の多い日本では原発の安全性確保は難しい
    • 「核のゴミ」処分方法が確立しておらず無責任
    • 再生可能エネルギーを推進せよ

    「原発活用」派の主張

    • 電力の安定供給には原発が必要
    • 原発は安価な電力
    • 安易な「原発ゼロ」は無責任
    • エネルギー安全保障の観点から、多様な電源が必要
    • 原子力関連の人材や技術を継承する必要がある
    • 再生可能エネルギーは不安定

    新たな「エネルギー基本計画」案に対する新聞各社の主張

    朝日新聞(2018年5月18日社説反対

    基本計画が描く将来像は内外の潮流から大きくずれており、変革期の道標たり得ない

    毎日新聞(2018年5月19日社説反対

    エネルギーを巡る環境は国際的にも国内的にも大きく様変わりしている。それにもかかわらず、現行の構成比に固執する姿勢は理解に苦しむ

    日経新聞(2018年5月30日社説やや批判

    現行計画を追認する結論を見る限り、課題の先送り感が否めない

    読売新聞(2018年5月22日社説やや評価

    計画の方向性は理解できる

    産経新聞(2018年5月17日社説やや批判

    原発の新増設や建て替え(リプレース)などの必要性に踏み込まなかったのは、いかにも物足りない

    社説読み比べ

    経産省がとりまとめた「エネルギー基本計画」の案は、「脱原発」「原発活用」双方の立場から批判されています。
    2030年度の電源比率について従来の目標を維持したことに対しては、「脱原発」スタンスの朝日・毎日は

    原発の比率を大幅に下げ、再エネは逆に引き上げる必要がある(朝日)

    (再生エネルギーの)目標も引き上げるのが自然だが、経済産業省のかたくなさがそれを押しとどめた(毎日)

    と批判しています。

    一方で、計画案は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけながらも新設や増設を明記しなかったことに対しては、「原発活用」スタンスの日経・読売・産経が

    原発を活用し続けるなら、原発の新増設の議論は避けられないはずだが、新計画では触れなかった(日経)

    (原発を)基幹電源とする以上、新増設も視野に入れねばなるまい(読売)

    原発の建設は長い年月がかかる大事業だ。原発の新設や建て替えに向けた環境整備は待ったなしのはずである(産経)

    と批判しています。

    つまり、今回の「エネルギー基本計画」案を巡っては、「脱原発」サイドの朝日と毎日からは、再生可能エネルギーを推進する姿勢が不十分だと批判され、「原発活用」サイドの産経からは、原発の新設・増設を盛り込まなかったことが不十分だと批判されているのです。

    計画案全体について、読売だけが「計画の方向性は理解できる」と理解を示しましたが、他の4紙は否定的に評価しています。

    ※読売(5月22日)、日経(5月30日)の社説掲載を受けて、5月20日に公開した記事を5月22日および5月30日に更新しました。

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